結果発表

〈受賞作品〉

公演部門

該当作なし

パッケージ部門

大賞

『羅生門☆プリンシプル』
(アーキテクト)

奨励賞

『無題』
(tendew)

 2020年9月15日、「新作マーダーミステリー大賞」を運営する各団体の代表(グループSNE:安田均&黒田尚吾、コザイク:秋口ぎぐる、ディアシュピール:川口正志、ミステリアス・トレジャー:水谷剛、ラビットホール:酒井りゅうのすけ)らによる選考会が行われ、上記の作品が受賞作として選出されました。

残念ながら公演部門は該当作なしとなりました。応募作の中では『鉄紺の証言』が最も高い評価となりました。くわしい講評については各〈個別講評〉の項目をご参照ください。

パッケージ部門は『羅生門☆プリンシプル』が受賞となりました。ある特定のミステリーのジャンルに属するギミックが使用されているため、「このタイプの作品を第1回の受賞作にして良いのか」「これを一般に向けて“お手本”として発表してよいのだろうか」とためらう声はあったものの、総合的な評価は群を抜いており、今回の結論に至りました。この作品はグループSNE/コザイクが展開する『Mystery Party in the Box』シリーズの1作品として近い将来、出版される予定です。

『無題』は、出版を希望する団体は出なかったものの、グループSNE:安田均、ミステリアス・トレジャー:水谷剛らの「今後に期待したい」という言葉もあり、今回は奨励賞の受賞となりました。

〈最終選考候補作〉

公演部門

『鉄紺の証言』(滝崎はじめ)

パッケージ部門

『死神は数字を刻む』(テイム)
『無題』(tendew)
『羅生門☆プリンシプル』(アーキテクト)

第1回募集要項はこちら

総評・個別講評を見る

〈総評〉

 マーダーミステリーという、原型は古くからあるものの新たに進化した分野でのコンテストゆえに、どんな作品が登場するか興味津々だった。結果はミステリーの解決をプレイヤーが捜索しつつ、それぞれの秘密が開示されるか否かの攻防を楽しむという基本に沿って、これまでにない部分を提示した四作品が最終的に優劣を競うことになった。
これらの分類、あるいは新味を書くと、ミステリーゆえにネタバレになるため明かせないが、どの作品も面白く遊べた。やはり新鮮な分野だけに、新たな手法、トリック、思い付きを持ち込みやすいのだと思う。また、文章やギミック(コンポーネント)などの水準も総じて高く、中核の内容以外も高レベルのものが揃っていた印象が強い。
細かい部分をあげつらえばきりがないし、そうした部分は他の作品コンテストでも見られるので、逆に‘おもしろそう’と思える点でどれも合格だったのは、高く評価したい。もちろん実際に遊ぶと、雰囲気と内容が齟齬をきたしたり、情報の開示や伝達のバランスが悪かったりはしたが、手直しできるものであったり、将来性は大いに感じた。
第2回以降も、今回を参考に優れた作品が登場することを期待したい。
(グループSNE:安田均)
 既存のフォーマットに縛られず、もっと自由に作っていただければな、と思いました。たとえば「最初から最後まで暗闇の中でプレイする」だとか、「必ず2人1組でプレイする」だとか、「プレイ中に必ず部屋の外へ出て特定の物品を獲得しなくてはならない」だとか……(すみません、適当な思いつきを書いています)。とにかく、この賞を運営する各団体が現在提供している作品群を「古くさいもの」と笑い飛ばすような、そんな弾けた作品をお待ちしています。
(コザイク:秋口ぎぐる)
 今回は応募の時期を考えると、まだ今ほどマーダーミステリーが世に出ておらず、「マーダーミステリーがどういうゲームで、どこに新規性があるのか」という部分が分からないまま、応募されている方も多いかと思います。そういう手探りの時期にも関わらず、たくさんのご応募をいただき、本当にありがとうございます。
まず私の評価の前提として「マーダーミステリー」をどのようなゲームであると捉えているのか書かせていただきます。
私が考える「マーダーミステリー」は、もちろん、プレイヤーに推理をさせるゲームです。そして、推理させるだけではなく、プレイヤー間で疑心暗鬼が発生するようにミッションを与え、情報の秘匿性を持たせることで情報公開のジレンマを発生させる。言うなれば「プレイヤーを一枚岩にさせない協力ゲーム」です。この仕組みが「マーダーミステリー」というコンテンツの新規性だと考えています。ここをどれだけ意識しているかが私の中で一番の評価軸です。
最初に書いたように、募集の時期を考えれば仕方ない部分もありますが、敢えて講評させていただくと、全体的に「情報の設定に甘さが見える」と感じました。私の今回の講評はこれに尽きます。情報設定の大切さを踏まえて、今後も沢山、素晴らしい作品が遊べるようになることを楽しみにしております。
(ディアシュピール:川口正志)
 まずは、コンテストの概要発表から締切までおよそ2か月という短い準備期間の中で作品を仕上げ、応募してくださった皆さま、本当にありがとうございました。どの作品にも面白いアイデアが見られ、楽しく審査することができました。
今回は、「アイデアは面白いんだけど……」となるか、ゲームとして完成度をさらに1段階上げられているかが、最後まで選考に残るかどうかの分かれ目になっていたように思います。惜しくも最終選考に残らなかった作品も、アイデアだけの一発ネタで終わっていないかという点を見直していただくとより良い作品になるのではないかと思います。
次回も独創的な作品に出会えることを楽しみにしております。
(ミステリアス・トレジャー:水谷剛)
 日本産マーダーミステリー作品が決して多くないタイミングで立ち上げた新しいコンテストに2ヶ月という短い期間で作品を作り上げて応募いただきありがとうございます。全体的な印象としては一つのアイディア勝負の作品が多かったのではないかと思っています。そのアイディア自体はとても独創的な作品が多くその作品の核となる部分に触れる瞬間は非常に楽しいものでした。そのアイディアから得られる体験価値は間違いなく作品において重要な要素であることは間違いありません。後はそれ以外のシーンを魅力的に演出する事や印象に残る仕掛けが重なり合うと、非常により物語体験が作り出せるのではないかと思っています。今後も新しい物語体験との出会いを楽しみにしております。
(ラビットホール:酒井りゅうのすけ)

〈個別講評/羅生門☆プリンシプル〉

 マーダーミステリーとしての構造がしっかりできていて、背景のストーリーや登場人物どうしの関わり合いも興味深く、よくまとまっていた。ただ、キャラクターの重要度に差があり、事件をはたから眺めている印象になる人もいるかもしれない。またあっと驚く展開を目指したのだと思うが、そこは“作家的”でプレイヤーが置いてきぼりの感があり、結果的に「ああ、そうなの」で終わってしまう危険性もある。
完成度は高い。
(グループSNE)
 物理的なギミックのおもしろさ、謎解き部分のスマートさは今回の応募作中随一。ただし「プレイを楽しめるキャラクター」と「そうでないキャラクター」の落差が激しい印象。すべてのキャラクターに強いドラマ性があるわけではないため、謎解きやその周辺情報への関連が薄いキャラクター(の担当プレイヤー)は自己の存在意義を感じられない。また謎解き自体はスマートなのだが、容疑者が少ないため、その謎解き自体を行わなくても消去法で真犯人が絞られてしまう。
(コザイク)
 とてもオーソドックスにまとめられたマーダーミステリーという印象でした。
推理の導線や、情報のコントロール、各キャラクターのプレイ感の均等化など課題もありますが、最もストレスなくプレイすることができました。細かい箇所を精査することで楽しい作品になると思います。おめでとうございます。
(ディアシュピール)
 仕掛けは面白いが、それにまつわる証拠や情報が少ない点で、特定のプレイヤーにはだまし討ちのように感じられ、納得感の低下につながっています。
その他の部分についてはおおむねうまくまとまっていると思いますが、メインミッションとサブミッションの間のジレンマが薄いキャラクターが多い点と、文字で長めに説明される手がかりが多い点は気になるところです。
(ミステリアス・トレジャー)
 全体的にスタンダードなマーダーミステリーの作りを踏まえつつ、それぞれのキャラクターにバックボーンがあり、物語の基盤はエントリー作品の中でも一番しっかりしている印象がある作品でした。
核となるアイディアも非常に面白い仕掛けになっていますが、仕掛けに気がつくための導線部分で情報が少し足りないかもしれません。この部分はもちろんテストや調整で更に素晴らしい作品に仕上がると思い、非常に期待値の高い作品と感じました。
(ラビットホール)

〈個別講評/無題〉

 内容物の見た目やゲームの進行手順に気を配ってあって、ライトにわいわいプレイしてもらおうと工夫した点に好感が持てる。登場人物も、用意された時代設定/舞台ならではのところがあり、とても楽しくプレイできた。ただし、その設定そのものはあまりストーリーに活かされておらず、残念。
真相が簡単にわかるのを避けたためか、そこへと至る道筋があいまいだったり、ゲーム的に難度の高い部分があったりと、ちぐはぐな印象は否めない。
(グループSNE)
 大正時代の神戸が舞台。雰囲気は良いのだが、いざプレイが始まってみると、ストーリー展開や真相に舞台設定がまったく関係していない。大正時代の神戸ならではの秘密や動機が用意されていてほしかった。また各キャラクターの個人目的が基本的に他キャラクターと対立するものではないため、「犯人以外は自分の個人目的を最初からすべてオープンする」形でも問題がない。この点、マーダーミステリーとしての醍醐味が失われている印象。最終的な犯人の動機、犯行方法等も納得度が低かった。
(コザイク)
 時代背景や、コンポーネントの冊子の見易さといった部分は他の作品より頭3つくらい抜けておりましたが、マーダ―ミステリーとしてのストーリー構成やゲーム性(推理導線や、キャラクターの行動を想定した情報の精査など)については、根本的な見直しが必要である作品と感じました。小説を書いているのではなく、「ゲーム」を作っていることを意識して、キャラクターの心の動きと、プレイヤーの行動予測を課題に頑張って欲しいと思います。
(ディアシュピール)
 キャラクター間の関係やミッションが上手く設定されており、しっかり楽しめました。また、文章が上手い。時代の雰囲気や現場の臨場感を文章表現だけで伝えられている作品は意外と少ないです。
難点はトリックが難解なことで、図解でわかりやすくするなどの改善が必要かと思います。
(ミステリアス・トレジャー)
 エントリー作品の中でも読み物として非常に整ったキャラクターシートをご用意いただいた作品でした。物語の導入もとてもワクワクする世界観描写が広がっていました。残念であったのはその世界観が物語の中ではあまり重要な要素にならなかった事です。トリックに関しても、物語の中から解き明かすには少し材料が少なく難易度が高く感じました。
(ラビットホール)

〈個別講評/死神は数字を刻む〉

 ゲームの出来としてはかなり粗く、表記ミスなども多く見受けられた。構造が非常にシンプルで、“これさえ出てくれば即犯人がわかる”ものが仕込まれているのはいかがなものか。
そのギミックには「なるほど」と思うが、苦笑せざるを得ないようなものでもあり、そこを受け入れられるかどうかによって印象が大きく変わるだろう。
(グループSNE)
 プレイの進行方法やクライマックスのアクション・システム等、グループSNE/コザイクの『Mystery Party in the Box』シリーズを参考にしてくださったと思われる。素直に感謝したい。それだけに、グループSNE/コザイクがアクション・システムを導入している理由(個人目的の達成/未達成の判定から曖昧さを廃し、個人目的の達成に必要な情報の有無をアクション行動に直接反映させる)を理解していただけていない(と感じられる)点が残念。またこの作品も犯人以外が個人目的を秘匿する理由が乏しく、密談のルールは用意されているものの、クローズド型でも成立する物語だな、という印象を拭えなかった。
(コザイク)
 シンプルなゲームにしたいという考えは伝わってきましたが、シンプルを目指すあまり、必要な要素を落とし過ぎてしまった印象です。犯人推理については、証拠品が決定的過ぎて、その核心を突く証拠品がオープンされるか否かでしかない点が高い評価に繋がらなかった理由です。アクションフェイズについても、上手く機能していなかったためマーダーミステリーに不可欠な「ジレンマ」を意識してみると良いかもしれません。
(ディアシュピール)
 ミッションの設定や容疑のばらけさせ方がうまくまとまっており、少人数・短時間の作品ながらオーソドックスに楽しめました。追加の手がかりの取得方法についてもよく工夫されています。
惜しむらくは、キャラクターのハンドアウトの記載に齟齬が多く見られること。ケアレスミスだけにもったいない。
短時間作品ゆえにストーリー全体を包括するような「大きな物語」がないのが残念ではありますが、手軽に遊べる作品としては良作かと思います。
(ミステリアス・トレジャー)
 少人数作品としてはシンプルでコンパクトにまとまっているという印象でした。それぞれのキャラクターの目線も非常にコントラストが効いていて設定の良さがあります。ミステリー部分においてのアイディアがかなり好みの分かれるタイプではないかと感じます。物語の没入度によってもオチの感想が変わるので少人数とはいえサイドストーリーで個々のキャラクターの没入度合いをあげる等の調整は必要かもしれません。
(ラビットホール)

〈個別講評/鉄紺の証言〉

 情報がフルオープンでもかまわない作りのため、実際のテストプレイでもカードを表向けて並べていくことになった。
かなり背景が凝っていて、プレイヤーは殺人事件を追うというよりも、自分たちがいま何をしているのか、ということのほうが気がかりで、手探りでゲームを進めている印象が強い。情報量が多くて処理しきれないため、せっかく仕込まれたアイディアの意図を、プレイヤーがうまく汲み取れていなかったように感じた。
(グループSNE)
 参考にしたであろう既存のマーダーミステリー作品のタイトルがすぐにいくつか思い浮かんだ。偶然の一致だとしたら残念。それら類似作品よりも要素は多いが散漫な印象であり、完成度の点で至っていない。また自然と「すべてのプレイヤーが入手した情報(カード)をすべてテーブルに並べる」展開になるため、各プレイヤーが個別に情報を収集する意義が乏しい。ひとりのプレイヤーがひとりのキャラクターを担当するマーダーミステリーというよりは、数人で集まってひとつの謎解きゲームをプレイしている感覚。プレイ後も、自分が特定のキャラクターをプレイした、という実感が湧かなかった。
(コザイク)
 少し特殊な設定のある作品でしたが、特殊な設定を持つ作品は、「その世界観で出来ること・出来ないこと」を明示する必要があります。この部分が足りないため、納得感のある内容になっていませんでした。また、各プレイヤー、情報を隠す理由もなかったため、情報全オープンで作業感の強い作品であったのが残念な点です。情報公開のジレンマが生まれるようなミッション組みと情報の精査を意識すると良くなると思います。
(ディアシュピール)
 意欲的な作品ではありますが、終了後に解説を聞いても腑に落ちない点が多く、世界観の伝達に難があるという印象です。全体として消化不良感が残りました。
マーダーミステリーよりも謎解きゲームに近いプレイ感を覚えましたが、そのような方向性もアリだとは思いますし、序盤の手探り感は楽しいので、世界観の伝え方を改善すれば良い作品になるのではないでしょうか。
(ミステリアス・トレジャー)
 導入から段階的に見えてくる世界観の表現は非常に面白い演出が仕込まれていまし。その部分のアイディアが中盤以降も持続されると非常に体験価値の高い作品になるのではないかと思いました。情報量の多さも気になった部分としてあり、もう少しスマートな形に調整ができればと感じました。
(ラビットホール)

第2回の開催について

第2回 新作マーダーミステリー大賞については2021年3月の締切を予定しています。具体的な応募要項については追ってこのサイトに掲載いたしますので、しばらくお待ちくださいませ。